2013年5月27日月曜日

まちかどエッセー#6 「漆の抗菌作用」

 あまり知られていませんが、漆には天然の抗菌作用があります。禅寺では食後のお茶わんにお湯を注いで飲み干したあと、布巾で丁寧に拭いておしまいにしますが、これも漆器の抗菌作用あってのことでしょう。日本の湿潤な気候においても衛生的に保たれるということで、食器が漆塗りであることにはとても意義があります。
 漆塗りの技術には、物の表面を塗り込めてしまう、一般的に「塗り」と呼ばれる技法のほかにも、木材の表面に擦り込むようにして漆を浸透させる「拭き漆」という技法があります。これは植物油などで希釈した漆をはけで塗って、染み込み具合をみながら端布などで余分を拭き取る工程を数回繰り返すという、特別な道具の要らない技法です。木目が美しく透けて見えるのが特徴です。仙台箪笥(たんす)はその代表ですね。
 わが家では床をこの拭き漆で仕上げています…というととても高級な印象がしますが、漆を扱った経験のない設計者や設計会社の所員さん、学生と一緒に施工しました。経験者の指導があれば、日曜大工的に施工ができます。
 風呂場ではホームセンターで買ってきたスノコに拭き漆を施しています。抗菌作用のおかげで、水あかに悩まされることも、カビが生えることもなく、ほったらかしで使っていますが、毎晩とても足触り良く気持ち良く入浴できています。
 室内環境を衛生的に保つことができる、ということでこの拭き漆の床を採用する保育園もあります。手にした物をすぐに口に入れてしまう小さな子どものおもちゃや積み木なども、漆を使えば親御さんも安心ですね。漆の物は長く使うと風合いも増すので、おもちゃがおさがりで嫁いだ(?)先でも、重宝してもらえることでしょう。
 漆はその品格や技術の精緻さなど、まさに表面的な部分で評価されることが多いですが、こうした、生活を清潔に保つ効果という機能的な面で、現代の生活でも、もっと訴求していけるのではないかと思います。

→まちかどエッセー#7 http://kekitonji.blogspot.jp/2013/06/7-01.html

2013年5月13日月曜日

まちかどエッセー#5 「たたずまいを整える仕事」

 3Dプリンターという言葉を耳にされた方も多いのではないでしょうか。最近メディアで取り上げられることも多いこの技術は、コンピューターで設計した3次元のかたちをそのまま合成樹脂などの立体物として造形するというものです。パソコンのモニターに映し出される単なる情報としてのかたちを、実際のものとして手に取ることができるということで「魔法の技術」として紹介されることも多いようです。
 近年こうした機材が個人でも買えるような価格になり、デジタルファブリケーションとも呼ばれる、パソコンと連動したこれらの機材を使ったもの作りが身近になってきました。とはいえ、全ての人にとってすぐに始められるものでもありませんので、まずは体験ができる市民工房のような場所が世界中に立ち上がっています。
 ここ仙台にもつい先日、仙台駅前に工房がオープンしました。さまざまな人がさまざまなもの作りを実験的に行い、インターネットを通じてその経験や工夫を世界中の仲間と共有して、新しいもの作りの可能性を探っています。
 パソコンのプリンターは家庭を印刷所に変えた、とも言われるように、デジタルファブリケーションが家庭を小さな工場にする可能性を秘めているという研究者もいます。個人のもの作りの在り方を大きく変えるかもしれないこの技術は、実は工芸職人さんにとって、とても大きな可能性を秘めています。
 工芸は手を尽くして、もののたたずまいを整える仕事です。パソコンでいくら簡単にものが作れるとしても、実際のものが手触りやたたずまいにおいて魅力的でなければ、それには価値がありません。この点でこうした工房の運営者の多くが、工芸技術との取り組みを切望しています。一方で、職人さんたちにとって、これらの技術はどこか縁遠いものと捉えられがちのようです。そこで、宮城大学では漆とデジタルファブリケーションによる造形研究のほか、職人さんのデジタルファブリケーション技術の利活用支援を行っています。

→まちかどエッセー#6 http://kekitonji.blogspot.jp/2013/05/6.html